八戸市の新井田川沿いに大型工場を構える八戸セメント。八戸石灰鉱山(八戸キャニオン)から主原料の石灰石を調達し、全国にセメントを供給する。前身となる「日出セメント」の創業から今年で106年。敷地内にそびえ立つ「NSPタワー」は産業都市・八戸を象徴するランドマークでもある。代表取締役社長の明代知也氏(63)に、業界の現状や今後の展望を聞いた。
―業界の現状をどう見る。
セメントの国内需要は1990年度から減少し、2024年度は前年度並みの3500万トンと見込まれている。ピーク時だった90年度の8600万トンと比較し、4割程度に縮小した。輸出は22年度以降、1千万トンを割る状況が続く。24年度の見通しは830万トンで、前年度よりは増加すると見込まれている。
セメント工場は23年4月時点で全国に30あるが、生産設備の稼働率は82%と低水準だ。ウクライナ情勢を背景としたエネルギーコストや資材価格の高騰、海外市況の下落が一因だろう。
―自社の活動状況は。
動脈産業であるセメントの生産能力は、操業当初の年間2万トンから150万トンに拡大した。ただ、国内需要の減少に伴い、現在は稼働率80%で年間120万トンの生産数量となっている。そのうち9割はセメントタンカーで関東、東北、北陸、北海道に供給している。
静脈産業としては、生産工程で廃棄物や副産物を有効活用している。セメント産業は工業炉での高温燃焼により、2次廃棄物が発生しない特徴がある。現在は年間52万トンの廃棄物や副産物を、原料や熱エネルギーとして活用している。
身近なものでは、火力発電所の石炭灰、清掃工場の灰、製鉄所の高炉スラグ、廃タイヤ、再生油などを再利用する。今後は石炭に代わる熱エネルギーの活用をさらに進め、循環型社会への貢献度を高めたい。
―企業活動の課題は。
石炭や電気などのエネルギー費が高騰している。小規模ながら廃熱を利用する発電設備があり、定期的な維持管理を施して有効発電量を確保していく。活用できる廃棄物や副産物もさらに増やしていきたい。
人材の確保も大きな課題の一つだ。技術を伝承し、将来を担うキーマンを育成しなければならない。工場見学の機会を増やすなど、学生に関心を持ってもらえるように努めていきたい。
常に安全安心な職場を目指し、工場で働く誰もが、大切な家族や仲間がいることを念頭に業務を遂行する態勢を今後も整えていく。
―カーボンニュートラルへの対応はどう進める。
脱炭素やカーボンニュートラルの取り組みは、住友大阪セメントグループとして対応している。使用する石炭の削減に注力し、八戸セメントとしては2030年に熱エネルギー代替率を27%に引き上げる計画だ。
第1ステップとして、生産工程で廃プラスチックや再生油を利用できる設備を設置した。以前から木質チップも使っている。ただ、現在はまだ計画値に及ばない状況であり、新規設備の導入も検討している。
「八戸地域新ゼロエミッション連絡協議会」に参画しており、そこで得られた情報も生かしていきたい。
―今後の展望は。
人口減少が進み、セメントの国内需要が増加することは難しい。ただ、自然災害が多い日本において、セメントは防災インフラの整備に欠かせない資材だ。
災害時には、膨大な災害廃棄物を活用し、復旧・復興のための資材に変えて供給している。災害廃棄物を大量に活用できるのはセメント産業の強みでもある。
八戸市内の各企業から支援や協力を受け、今年で創業106年を迎えた。引き続き信頼関係を維持し、次の100年に向かって事業を継続していきたい。
■略歴
あけしろ・ともや 山口県宇部市出身、千葉県市原市育ち。広島大卒。1983年、住友セメント(現住友大阪セメント)に入社。生産技術部長、高知工場長などを歴任し、2022年6月に八戸セメントの代表取締役社長に就任した。
■会社概要
本社は八戸市新井田下鷹待場7の1。従業員数92人。1918年に日出セメントとして創業。合併や社名変更を経て77年に住友セメントから分離独立し、八戸セメントとなった。住友大阪セメントグループに属する。八戸バイオマス発電所のオペレーションも担う。